第5話 王都文芸祭に殴り込み

文彩太郎
公開日 2026年8月3日
最終更新日 2026年8月3日
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町を救った蒼太のもとへ、王都から一通の招待状が届いた。

差出人は王立記録院。

王国中の書物や歴史を管理する、最も権威ある組織だった。

「王都文芸祭に参加せよ、だって」

リナが招待状を読み上げる。

「文芸祭があるなら、小説もあるんじゃないのか?」

「歴史書や研究書の品評会だよ。作り話を出す人なんていないと思う」

蒼太は王都へ向かうことを決めた。

銀の麦穂亭での連載をリナに任せ、完成した新作を抱えて馬車に乗る。

王都の会場には、分厚い学術書や豪華な年代記が並んでいた。

蒼太の本だけが薄く、表紙には竜と少女の絵が描かれている。

周囲の学者たちは露骨に顔をしかめた。

「事実ではない文章を本と呼ぶのか」

「子どもの遊びを持ち込む場所ではない」

審査員の一人、王立記録院の筆頭書記官ベルグは、蒼太の本を机へ放り投げた。

「虚構は人を惑わせる。書物とは、正確な事実を後世へ残すためのものだ」

蒼太は本を拾った。

「記録が大切なのは分かります。でも、人は事実だけでは前を向けないこともある」

「何?」

「まだ起きていない未来を想像する。自分ではない誰かの気持ちを考える。それも物語にしかできないことです」

ベルグは笑った。

「ならば証明してみろ。この会場にいる者を、作り話だけで感動させてみせよ」

蒼太は会場中央の机に座った。

制限時間は一時間。

その場で物語を書き、来場者へ読ませる公開執筆が始まった。

蒼太が書いたのは、年老いた書記官の物語だった。

書記官は生涯にわたり、王国の出来事を記録してきた。

だが最後の日、自分自身については一行も書いていなかったことに気づく。

彼が残した最後の文章は、歴史ではなく、家族へ宛てた短い手紙だった。

読み終えた会場は静まり返った。

学者の一人が眼鏡を外し、目元を拭う。

若い書記官は、自分の父親を思い出したとつぶやいた。

ベルグも本を閉じたまま、しばらく動かなかった。

《新規読者、千八百四十二名》

会場の上空に、無数の光る文字が現れる。

文字は鳥となり、花となり、星となって天井を巡った。

王都文芸祭の最優秀新人賞は、満場一致で蒼太に決まった。

「今日から、あなたは王国公認の小説家です」

授賞式のあと、王女から直接、金色の証書が手渡された。

蒼太は異世界で、ついに正式な小説家デビューを果たした。

だが、観客席の奥で、一人の男が冷たい目を向けていた。

「物語を現実へ変える作家か」

黒い外套の男は、蒼太の本とまったく同じ表紙の本を持っていた。

「その能力、私が使わせてもらおう」