第5話 王都文芸祭に殴り込み
町を救った蒼太のもとへ、王都から一通の招待状が届いた。
差出人は王立記録院。
王国中の書物や歴史を管理する、最も権威ある組織だった。
「王都文芸祭に参加せよ、だって」
リナが招待状を読み上げる。
「文芸祭があるなら、小説もあるんじゃないのか?」
「歴史書や研究書の品評会だよ。作り話を出す人なんていないと思う」
蒼太は王都へ向かうことを決めた。
銀の麦穂亭での連載をリナに任せ、完成した新作を抱えて馬車に乗る。
王都の会場には、分厚い学術書や豪華な年代記が並んでいた。
蒼太の本だけが薄く、表紙には竜と少女の絵が描かれている。
周囲の学者たちは露骨に顔をしかめた。
「事実ではない文章を本と呼ぶのか」
「子どもの遊びを持ち込む場所ではない」
審査員の一人、王立記録院の筆頭書記官ベルグは、蒼太の本を机へ放り投げた。
「虚構は人を惑わせる。書物とは、正確な事実を後世へ残すためのものだ」
蒼太は本を拾った。
「記録が大切なのは分かります。でも、人は事実だけでは前を向けないこともある」
「何?」
「まだ起きていない未来を想像する。自分ではない誰かの気持ちを考える。それも物語にしかできないことです」
ベルグは笑った。
「ならば証明してみろ。この会場にいる者を、作り話だけで感動させてみせよ」
蒼太は会場中央の机に座った。
制限時間は一時間。
その場で物語を書き、来場者へ読ませる公開執筆が始まった。
蒼太が書いたのは、年老いた書記官の物語だった。
書記官は生涯にわたり、王国の出来事を記録してきた。
だが最後の日、自分自身については一行も書いていなかったことに気づく。
彼が残した最後の文章は、歴史ではなく、家族へ宛てた短い手紙だった。
読み終えた会場は静まり返った。
学者の一人が眼鏡を外し、目元を拭う。
若い書記官は、自分の父親を思い出したとつぶやいた。
ベルグも本を閉じたまま、しばらく動かなかった。
《新規読者、千八百四十二名》
会場の上空に、無数の光る文字が現れる。
文字は鳥となり、花となり、星となって天井を巡った。
王都文芸祭の最優秀新人賞は、満場一致で蒼太に決まった。
「今日から、あなたは王国公認の小説家です」
授賞式のあと、王女から直接、金色の証書が手渡された。
蒼太は異世界で、ついに正式な小説家デビューを果たした。
だが、観客席の奥で、一人の男が冷たい目を向けていた。
「物語を現実へ変える作家か」
黒い外套の男は、蒼太の本とまったく同じ表紙の本を持っていた。
「その能力、私が使わせてもらおう」
