第1話 落選作家、異世界へ
「今回の選考では、残念ながら――」
成瀬蒼太は、パソコンの画面に表示されたメールを途中で閉じた。
読むまでもない。今回での落選だった。
昼間は小さな印刷会社で営業として働き、帰宅してから深夜まで小説を書く。そんな生活を五年続けている。
書くことは好きだった。
だが、作品を読んでくれる人は少ない。感想が一件もつかないまま、投稿サイトの新着欄から消えていく作品も珍しくなかった。
「才能、ないのかな」
蒼太は机の横に積み上げられた原稿を見た。
それでも、書くのをやめる気にはなれなかった。
蒼太は新しい投稿画面を開いた。
タイトルは『白紙の魔導書』。
異世界へ迷い込んだ青年が、書いた文章を魔法に変える物語だ。
「今度こそ、一人くらい読んでくれますように」
蒼太が投稿ボタンを押した瞬間、画面が真っ白に光った。
部屋の照明が消え、机が揺れる。
パソコンの画面から白い紙が何百枚も飛び出し、渦を巻きながら蒼太の身体を包み込んだ。
「何だ、これ!」
足元の感覚が消える。
次に目を開けたとき、蒼太は石畳の路地に倒れていた。
見上げると、古い石造りの建物が並んでいる。通りを歩く人々は、長い外套や革の鎧を身につけていた。
空には、翼を持つ巨大なトカゲが飛んでいる。

「まさか、本当に異世界?」
蒼太は立ち上がろうとして、足元に一冊の本が落ちていることに気づいた。
表紙も中身も真っ白な本だった。
触れた瞬間、頭の中に声が響く。
《固有能力・物語具現化を獲得しました》
《あなたが書いた物語は、読者の想像力によって現実となります》
「俺が書いた物語が、現実になる?」
半信半疑のまま、蒼太は白紙の本に文章を書いた。
〈暗い路地に、小さな光の鳥が現れた〉
最後の句点を書いた瞬間、文字が金色に輝いた。
本のページから、手のひらほどの鳥が飛び出す。
淡い光を放ちながら、鳥は蒼太の周りを一周した。
「本当に出てきた……」
しかし、光の鳥は数秒で消えてしまった。
《読者数、一名》
《物語への共感が不足しています》
「一名って、俺自身か」
つまり、この力を強くするには、ほかの誰かに物語を読んでもらう必要がある。
現実世界では、読者を得ることすらできなかった。
だが、この世界には、まだ投稿サイトも出版社もない。
蒼太は白紙の本を抱え、立ち上がった。
「だったら、ここでデビューしてやる」
異世界で最初の読者を探すため、蒼太は明かりの見える通りへ歩き始めた。
